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東京地方裁判所 平成12年(ワ)12942号 判決

原告 更生会社 株式会社エルカクエイ

管財人 東海林義信

同 管財人 今井健夫

右両名訴訟代理人弁護士 増岡研介

同 竹村葉子

同 相羽利昭

同 田川淳一

被告 京セラコミュニケーションシステム株式会社

右代表者代表取締役 森田直行

右訴訟代理人弁護士 西枝攻

同 鷲尾啓治郎

主文

一  被告は、原告らに対し、金一一四八万七六七二円及び内金二八七万一九一八円に対する平成一二年三月一日から、内金二八七万一九一八円に対する同年四月一日から、内金二八七万一九一八円に対する同年五月一日から、内金二八七万一九一八円に対する同年六月一日から各支払済みまで年一四パーセントの割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は、被告の負担とする。

三  この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

主文第一項と同旨

第二事案の概要

本件は、更生会社株式会社エルカクエイ(以下「更生会社」という。)の更生管財人である原告らが、更生会社のサブリース物件の賃借人である被告に対し、未払賃料及び共益費の支払を請求したのに対し、被告が更生会社に差し入れた敷金の返還請求権を自働債権とし、賃料債権及び共益費債権を受働債権として相殺したとしてこれを争った事案である。

一  前提事実

1  更生会社は、土木、建築工事の設計、施工、監理及び請負等を目的とする会社であるが、当庁に会社更生手続開始の申立てをし、平成一二年五月一二日午後〇時更生手続開始の決定を受け、原告らが管財人に選任され、債権届出期間が同年六月二七日と指定された(争いがない。)。

2  被告は、コンピューターソフトウエアの開発、販売並びに賃貸等を目的とする株式会社である(争いがない。)。

3  更生会社は、平成二年七月ころから、平久製材株式会社所有の別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)一棟を借り上げ、これを個々のテナントに賃貸するといういわゆるサブリース業務を行ってきた(争いがない)。

4  更生会社は、平成八年八月三一日、被告との間で、本件建物につき、次の内容の賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結し、同日、被告に対し、本件建物を引き渡した(争いがない)。

(一) 賃貸期間 平成八年九月一日から平成一〇年八月三一日まで

(二) 賃料 月額一九〇万二七二〇円(消費税抜額)

毎月末日までに翌月分を支払う

(三) 共益費 月額八三万二四四〇円(消費税抜額)

(四) 遅延損害金 年一四パーセント

(五) 敷金 一九〇二万七二〇〇円

5  本件賃貸借契約は更新され、その賃貸期間は平成一二年八月三一日までとなった(甲一、弁論の全趣旨)。

6  被告は、別紙未払賃料・共益費一覧表記載のとおり、平成一二年三月分以降の賃料等を支払わない(甲二)。

7  被告は、原告今井に対し、更生債権届出期間内である平成一二年六月九日付けで、本件賃貸借契約を解約し、同年一二月末日限り本件建物を明け渡す旨並びに被告が更生会社に差し入れた敷金の返還請求権を自働債権とし、未払の賃料債権及び共益費債権を受働債権として相殺する旨の意思表示を行い、右意思表示は、翌一〇日、原告今井に到達した(争いがない)。

二  争点

本件における争点は、会社更生法(以下「法」という。)一六二条二項但書による相殺の可否、すなわち被告のした相殺の意思表示が法一六二条により有効となるか否かである。

第三当裁判所の判断

一  敷金は、未払の賃料債務や賃貸借契約の終了に基づく原状回復義務から生じる債務のほか、目的物の明渡義務履行までに生じる賃料相当損害金支払義務等賃貸借契約により賃借人が賃貸人に対して負担する一切の債務を担保するために授受されるものであり、敷金返還請求権は、賃貸借契約終了後、目的物の明渡完了のときにおいて、それまでに生じた右のような被担保債務を控除し、なお残額がある場合に、その残額について具体的に発生するものであって(最高裁昭和四八年二月二日第二小法廷判決・民集二七巻一号八〇頁参照)、停止条件付債権であると解される。

そして、更生債権者が更生手続開始当時会社に対して債務を負担する場合において、更生債権者に相殺が認められるのは、債権及び債務の双方が更生債権及び更生担保権の届出期間の満了前に相殺適状にある場合に限られるところ(法一六二条一項)、停止条件付債権は、いまだ債権として現実化していないから、条件成就前にこれを自働債権とする相殺は許されないものと解するのが相当である。

二  ところで、法一六二条二項は、「前項の規定による相殺は、更生債権者又は更生担保権者の更生手続開始後の賃料債務については、当期及び次期のものに限り、これをすることができる。但し、敷金があるときは、その後の賃料債務についても、相殺することができる。」と規定するところ、同項の本文は、賃料債務を受働債権とする相殺を無制限に認めると、更生債権者又は更生担保権者は、全額につき完全な弁済を受けたのと同様の結果になり、他の債権者との平等を害する反面、会社が財産使用の対価を受けられなくなり、会社再建に支障をきたすところから、二期分に限って、これを受働債権とする相殺を更生債権者等に認めたものである。

他方、同項但書は、更生債権者又は更生担保権者が敷金を支払っているときは、会社は、現実に賃料の前払いを受けたのと同様の経済効果を有しているところから、さらにその後の賃料についても、敷金に相当する額まで相殺を可能としたものである。

したがって、同項但書は、賃料債務につき相殺可能とされる受働債権の範囲を拡大したものと解されるにとどまり、同条一項についての自働債権に関する特則を定めた趣旨の規定と解することはできない。

三  これに対し、被告は、法一六二条二項但書の趣旨につき、敷金返還請求権が現在化していない場合でも、将来発生する敷金返還請求権を自働債権として、次々期以降の賃料との相殺を認める規定であるとの解釈を前提として、本件は同条項の但書が想定する場合に該当するから、被告のした相殺は有効であると主張する。

しかしながら、仮に、条件未成就の敷金返還請求権を自働債権とする相殺を許すとすると、敷金の前記性質からして、相殺の意思表示の時点における自働債権の額を確定することは不可能というべきであり、法律関係の安定を著しく阻害するのみならず、その点を交付済みの敷金全額ないし賃貸借契約で定められた一定額を控除した残額と解するとしても、使用中の債務不履行による損害、相殺の意思表示後に生じた未払賃料や解約後明渡しまでの賃料相当損害金等を最終的に保証するという敷金の担保的機能が失われてしまうのであって、会社や他の更生債権者の利益を不当に害するおそれがあり、相当ではない。

したがって、法一六二条二項但書は、賃借物の明渡し前に敷金返還請求権を自働債権とし、賃料債権を受働債権とする相殺を認めた規定と解することができないから、被告の右主張は、にわかに採用できない。

第四結論

以上によれば、原告らの請求は理由があるから、これを認容すべきである。

(裁判官 小磯武男)

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